雪が降った。そして君が。
 僕は勢いよく病室の扉を開け、ベッドに駆け寄った。

 「――美帆、ごめんっ」
 ひとりにさせて。そう言葉を続ける前に僕は彼女を抱き締めていた。
 美帆が手を伸ばし、無表情のままテーブルの上に出来た水溜まりを撫でていた。その上にあった情けない雪だるまの姿はもう影も形も無い。

 ねえ、美帆。その濡れた手から、少しでも僕は君の中へと入れたのかな?

 あのヘタレな雪だるまは――きっと僕。


「陽……斗」

 僕の腕の中から聞こえた消え入るような声。少し鼻にかかった高い、愛しい声。僕の名前を呼ぶ声。一年ぶりに聞く君の声。
 思わずまた涙が溢れ出そうになる。でも、僕はもう泣かない。涙を拭うのは君の頬だけだと決めたから。

「どうした? 寒いか?」
 体を離し、慌てて彼女の冷たく濡れた手を握り締める。
 美帆はゆっくりと首を横に振り、開いている方の腕を伸ばし、窓を指さした。






< 9 / 10 >

この作品をシェア

pagetop