無口な王子様
「ねぇ、慶太とうちの雪乃ちゃんを会わせてあげたいんだけど、いいでしょ?」

雪乃ちゃんとは、レースの塊を着た優奈の人形のことだ。

「やだね。」

「服作りの邪魔はしないからぁー!」

「絶対やだ!」

「もう!亜由美ちゃんのケチ!ぶぅ!」

頑なに拒否する亜由美に優奈がほんのり赤い頬を膨らます。

すると亜由美は
「ぶぅって、漫画みたいな奴だな。」

とため息をつく。

優奈はスカートを綺麗にひるがえして、私を見る。

「いいでしょ?ね?ね?」

私はどう答えていいか分からずに、亜由美を見る。

「だーかーらぁ!だめだってば!」

亜由美は足をバタバタさせて叫んだ。

朝からこのやりとりが延々と続いている。

亜由美はどうしても、慶太を誰にも見せたくないようだ。

その気持ちも分からなくはないけど、優奈にちょっと悪いような気もする。

けれど、亜由美も私も優奈の事を甘く見ていたようだ。
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