無口な王子様
今まで、クラスでも学校全体からみても浮いた存在だった優奈から、こういう言葉を聞けて、私は嬉しかった。

親友だ友情だに興味がないんじゃなくて、少しでも仲良くなって本当に好きになったらどうしようと、いつも一線を引いていたんだね。

人を好きになるのは素晴らしいことだけれど、それは時に自分や相手を苦しめることになる。

優奈はそのことを理解して、一人の世界にいたんだ。

そして、今、ようやくその呪縛から抜け出して、何も怖がらずに笑っている優奈の笑顔は、誰よりも輝いていると私は思う。

私も負けないように輝かないと。

女の子でいれる期間なんて短いんだからね。


私は、満ち足りた気分でミシンの前に腰掛けた。


そして、大きく深呼吸して、ミシンの押さえを下ろす。

優しくペダルを踏むと、低いモーター音と共にゆっくり針が進みだす。

慎重に生地を送って、縫い目がぶれないように丁寧にカーブを縫う。

いつもこのカーブでつまずいていただけあって、緊張する。

だけど、今回は、白い柔らかな生地は素直に従ってくれて、私は安堵した。

後は、気を抜かないように直線部分を縫うだけだ。

残り工程もこの調子で出来れば、もしかしたら間に合うかもしれない。


私の脳裏には、このブラウスを着て微笑む慶太の顔が浮かんできた。


―――焦ってはいけないよ。焦ると本当の能力は隠れてしまうんだよ。


そう言う慶太の声は今日も優しかった。
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