無口な王子様
私は、扉に飛びついてノブを回した。

ガチャガチャと音がするだけで、開かない。

「ダメ。鍵かかってる。」

それでも、どうにか開けようとノブを回し続ける私を

「凛!やめな!壊れるって。有紀さんまだ来てないだけだよ!」

と、亜由美が制した。

違う、そんなんじゃない。

昨日の有紀さんの様子を思い出せば思い出すほど、そんな理由はなんの気休めにもならなくなっていく。

「大丈夫だって!」

ノブを握り締めたまま今にも泣き出しそうな私を、亜由美が抱きしめてくれた。

「もうちょい待ってみようよ。ね?」

「おかしいよ!もう1時だよ?有紀さんが遅れてるわけないじゃん!」

すると、亜由美は何も言い返せずに黙ってしまった。

今日は定休日でもない。

朝の早い時間にやってくる常連さんの為に、お店は開いているはずだ。

それに、ケーキもここで作ると言っていた。
有紀さんが、今ここにいないのは不自然だ。

私の不安はどんどん募って、もう限界を超えようとしていた。

きっと、亜由美がいなかったら窓を割ってでも、店に中に侵入していただろう。
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