無口な王子様
「姉さん、病気だったの。……もう先は長くないって本人も分かっていたわ。
でも、この店だけは守りたいって、病院に入ってくれなかったのよ。
だけど、あなた達が来てくれるようになってこの頃すごく生き生きしていたの。
病気なんて治ったんじゃないかなって、私でさえそう思ったわ。」


洋子さんの話が何かのセリフのように聞こえる。

今にも有希さんが「冗談よ」と、笑って出てきそうな気がした。


「でも……やっぱり病気には勝てなかったのね。
昨日の夕方、ここで倒れてそのまま……」

洋子さんはポタポタと涙を落とした。

その涙は嘘なんかではない。本物だった。


「だって……」
亜由美がそう言って泣き出した。

優奈もピンクのハンカチに顔を埋めている。

二人を見て、これは現実だとやっと思えた。


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