無口な王子様
「あの!慶太は?慶太はどこにいるんですか?」

洋子さんは驚いた顔で私を見た。

「有紀さんが大事にしていたお人形です!」

私は涙をグイっとぬぐった。

「そうだよ!慶たん!」

亜由美もそう言って顔を上げた。
洋子さんは、私達を見て弱弱しく微笑んだ。

「姉さんが喜ぶわ。そんなにあの子の事を気に掛けてくれて。」

そして、机の上の封筒から、さらに小さな封筒を3つ取り出した。

「姉さんはね、慶太くんがずっと気がかりだったの。
自分がいなくなったらこの子はどうなるの?って、口癖だったわ。」

洋子さんは、私達一人づつの前に小さな封筒を置いていく。

「自分の命の期限が来るまでにって、慶太くんをちゃんと引き取ってもらえる人が現れるのをここでずっと待っていたの。」

そういえば、以前そんな事を有紀さんが言っていたのを思い出した。

「それで、慶太は……?」

「大丈夫。ちゃんと家にいるわ。」

「でも、有紀さんがいなくなったら……」


……慶太は一人になってしまう。

< 164 / 205 >

この作品をシェア

pagetop