無口な王子様
亜由美は覚えているだろうか?

私が忘れていたあの約束を。

覚えていたなら、ここで会える。

そしたら沢山話をしよう。

慶太のこと、私の今後のこと、和也のこと、そして亜由美のこと。


後から追いかけてきた優奈とほぼ同時に木の下に着くと、私は果てしなく高い木のてっぺんを見上げた。

今日も、校長先生は「あの木のように、雄大な強い人間になって欲しい。」と言っていたっけ。


校舎に挟まれた中庭には、あちこちから生徒の声が漏れ聞こえてきている。

こんなに沢山の生徒がいるのに、ここにいるのは私と優奈の二人だった。

「亜由美ちゃん来るかな。」

優奈が息を切らながら、そう言った。

「どうだろ……。」

私は、ゆっくりと歩きながら木の幹に手を添えて、ぐるりと木の周りを一周した。

「だよね。私達忘れてたもんね。」

優奈は、近くの花壇の淵に腰掛けてあたりをキョロキョロと見回してした。


「そうだね。薄情なもんだよ。」

そのとき、私の足が異変に気付いた。
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