無口な王子様
私達は、コーヒーと有紀さん特製プリンを食べてから、早速縫製を開始した。

有紀さんのプリンは、卵と牛乳の味がしっかりして、懐かしい味がした。


私は、亜由美がミシンを使う間、しつけ糸で仮縫いをする。

亜由美は待ち針で止めるだけで十分らしい。

不器用な私は面倒だけど、一つ一つ段階を踏まないといけない。

しかし、一針づつ進むに連れて、私はその単調な作業に没頭し始めた。


ミシンのカタカタいう音、コーヒーの香り、少しづつ伸びていく縫い目。

心が穏やかになっていくのを感じた。

昔から、針仕事は女性の仕事だっていうけれど、それもそうだ。

忙しい家事の間のゆったりとした時間を、男性に取られたくないもんね。

そういえば、足が悪かった祖母は朝から晩まで編み物をしていたっけ。

やりたい事がうまく出来ない苛つく気持ちを、編み目に封じ込めて心のバランスを取っていたのかもしれない。


私は取り留めない事を考えてながら、一つ一つのパーツを繋げていった。
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