無口な王子様
そんなある日、ソワレに行くと珍しくお客さんが来ていた。
私が学校に行ってる間は近所の常連が来ているらしいのだが、この時間にお客さんがいたことは無かった。
その人は、有紀さんより少し若い感じの女性で、カウンターに座って有紀さんと小声で話をしていた。
そして、私の姿を見て軽く会釈をすると小銭を置いて
「じゃあ、またね。」
と言って帰ってしまった。
「有紀さん、邪魔しちゃったみたいでごめんなさい。」
ちょっとタイミングが悪かったと思って私が謝ると、有紀さんは、お金とカップを片付けながら、
「大丈夫よ。凛ちゃん、今日は紅茶のクッキーを焼いたのよ。亜由美ちゃんが来たら一緒に食べましょうね。」
と、微笑んだ。
私は頷くと、作りかけの服を取り出して昨日出来なかった部分の仮縫いを始めた。
有紀さんの様子がちょっと違うことも、集中するうちに忘れてしまった。