Libra ~揺れる乙女心~
天使
「おい、隆介!どうした?」
健太のボールを取り損ねた。
キャッチボールでこんな失態は、生まれて初めてのことだった。
「悪ぃ、ちょっと体調悪いから休むわ…」
心配そうな健太を残し、俺は校舎の裏へと歩いた。
吹奏楽部の練習の音を聞きながら、ここで時間を過ごすのが好きだった。
先輩に言われた嫌なことや、時々思い出す母さんの記憶をここで整理するのが好きだった。
学校には似合わない松の木が1本だけそびえ立つ。
年老いた植木屋さんが、管理してくれているおかげでいつも美しく保たれていた。
水道の水を勢い良く出し、顔を洗う。
生温い水が、すぐに冷たくなる。
「はぁ…」
ため息をつく。
「俺はどうすればいいんだ…」
柄にもなく独り言を呟く俺。
相当参ってる。
誰かに救いを求めても、誰もこの気持ちはわかってはくれないだろう。
『浮気してんだろ!』と言えない俺を、もう一人の俺が冷めた目で見ている。
意気地なし。
弱虫。
寂しがり。
お前は傷付くことを恐れてるだけ…