Libra ~揺れる乙女心~
8回表【鈴子】
空へ消えたボール
あと1試合で甲子園に行ける。
そのプレッシャーだったのか、今日の試合は少し違っていた。
みんなほんの少しいつもとは違って、何か違う空気を感じた。
健太も気合の入り方も、隆介の集中の仕方も
監督までもがおかしかった。
8回表、3点差で負けていた。
健太がノックアウトされ、マウンドに上がった隆介。
まだ、場内もざわざわとしたままの第1球目。
ボールは空へと消えた。
「しっかりして!!まだ2回もあるんだから!」
マネージャー達はわざと明るく声をかけた。
のびのびと野球をしていたみんなが急に固くなっていた。
笑顔も消え、動きもいつもより固い。
3番から始まる好打順だったにも関わらず、3人で攻撃が終わる。
また隆介はマウンドに上がる。
隆介は自分しか頼る人がいない。
隆介以上のピッチャーはもういない。
自分が最後まで投げ切ることだけを考えて、
しっかりした目でキャッチャーを見つめた。