Secret Heart
「名前、なんてーの?」
手当ての後の少しの沈黙を破ったのは、先輩の質問だった。
名前…?
あぁ、先輩は遅れて来たから自己紹介聞いてなかったんだ。
『高野陽菜です。』
「陽菜ちゃんね。」
よろしく、と言って握手を求めてきた。
先輩のその自然過ぎる行動に戸惑いながらも、すぐに嬉しさが込み上げてきて両手で握り返した。
「…俺らのマネさ、見ての通り掃除とか全然やってくれないんだよ。」
『…?』
突然神妙な面持ちで、先輩は静かに話し始めた。
「だからと言って、進んで掃除しようなんて奴はうちの部活にいないし。
だからこの有り様。」
そう言って肩を落とす先輩は、なにか小動物みたいでトクンと胸が高鳴る。
その鼓動が、2人きりの静かな空間に響いてしまうのを聞かれたくなくて、慌てて会話を繋げる。