天然なあたしは悪MANに恋をする
「バイト、行ってくる」

2階から降りてきたレンが、キッチンの横を通り過ぎ様に、口を開いていった

「ちょ…ちょっと、お兄ちゃん?」

レンのお母さんが、野菜を切っている手を止めると、エプロンの裾で手を拭きながら廊下に飛び出していった

あたしは洗い物をしているのを一旦区切って、手につている泡を流してから、玄関へと足を向けた

「今夜は鍋だって言ったじゃない」

「ああ、聞いた」

「お兄ちゃんのバイトが休みだって言うから、鍋にしたのよ?」

レンのお母さんが、靴を履いているレンの背中に向かって、言葉を投げかけた

「バイトが入ったんだから、仕方ないだろ」

「今朝、休みだって言ったわよね?」

「さっき急に呼び出されたんだよ」

レンが面倒くさそうに説明をする

靴を履き終わったレンが、立ちあがって、あたしたちのほうを見た

「もう行くかんな」

「ちょっと、お兄ちゃん!」

「何だよ」

苛立たし気に、レンが息を吐き出した

「お兄ちゃんの分まで、たくさん買い込んできたのよ? どうしてくれるのよ」

「知るかよ。余ったら、余ったでいいだろ。明日また誰かが食うだろ」

レンが肩からかけている鞄のストラップに手をかけて、ドアに振り向こうとした…が、レンの視線があたしの腕でぴたっと止まった

「何、その痣」

洗い物をして、袖をまくっていたあたしの腕に視線を落としたまま、レンが怖い顔をした

「え?」

あたしはレンが見ている腕を見た

「ああ、これ? 階段から落ちそうになって、3年生の先輩に助けてもらったの。そのときの痣」

「ふうん」

レンが目を細めて痣を見てから、「じゃ」と言って、身体を回転させた

「それだけなの? お兄ちゃんっ。もっと心配しなさいよ」

レンのお母さんが怒鳴る中、レンは家を出て行った

「もうっ! 何なのよ、お兄ちゃんは」

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