天然なあたしは悪MANに恋をする
「ちょ…待てってば!」

電車の扉が閉まる直前に、レンが駆けこんできた

あたしの前に立つと、荒い呼吸を整える

「なに、怒ってるんだよ」

「怒ってない」

あたしはぷいっとレンから視線を外した

「怒ってるだろ」

レンは込み合う電車内からあたしを守るように、肩を抱いてくる

「怒ってない」

「昨日、バイトのことを言わなかったからかよ」

「別に」

「あー、もう」

レンが髪を掻き毟った

『あれ、もしかして…レンじゃない?』

電車内で、ひそひそと話をしている女子高生の声が聞こえた

え?

あたしは顔を動かして、声のしたほうを見た

レンも、声がしたほうに視線を動かして、表情を曇らせた

「あ…まゆみ様とケイコ様?」

レンの言葉に、あたしは眉に力が入った

『様』付けって…なに?

あたしは目が点になって、レンの横顔を眺めた

「やっぱりぃ…レンよね!」

女子高生に声をかけられたレンが、作り笑顔で微笑んだ

「今日は、いるの?」

「はい、もちろんです」

「じゃあ、行こうかな?」

「お帰りをお待ちしております」

レンの丁寧な言葉遣いにあたしは、スッとレンから距離を置いた


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