天然なあたしは悪MANに恋をする
『お前さ。少しは学習しろよ。頭、いいくせに馬鹿なんだよ』

レンの声があたしの頭の中でリピートし、心の傷口をエグった

セイちゃんとリンちゃんに貸したお金は、今日の4千円だけじゃない

4月から合わせれば、もう6万近くいってる

「あとで返すから」と口でいいながら、きっと2人には返す気なんてないんだ

中学のときは、親の離婚で女子たちから苛めにあった

母が男と浮気して、家を出て行ったのがきっかけで……レンを好きな女子たちから、苛められて、無視されて、辛かった

だから高校では、心の底から信頼できる友人を作りたいって思ってた

「…けど、無理みたい」

あたしは深いため息をつくと、1年の教室が並ぶ廊下で立ち止まった

「ちょ…待て! あんた…てか、名前がわからねえから、呼びとめることもできねえじゃねえかよ」

3年の廊下から追いかけてきてくれたのか、立宮先輩が息をきらして、あたしの真後ろで足をとめた

「あんた、意外と走るの早えよ…て、名前! あんたの名前は?」

「あ、えっと…瑞那(ミズナ)です」

「瑞那が傷つく顔をすることはねえんだよ。あいつらが悪いんだ。瑞那は笑ってろ」

「え?」

あたしは首を横に倒した

「あ、それと…英語教師の立宮ってヤツは俺の兄貴だよ」

「はあ…」

あたしが頷くと、立宮先輩がニヤッと口を緩めて、ひとさし指であたしの鼻をツンと押した

「瑞那が質問しただろ? その答えだよ」

「はい。ありがとうございます」

あたしはお辞儀をした

「んだよ…急によそよそしくなってさ。タメ語でいいよ。俺、瑞那を気に入ったから…ってやべっ。兄貴の補習に遅れるっ。じゃあな」

立宮先輩が右手を上げると、階段をまた駆けあがって行った

えっと…あたしが傷ついたと思って、慰めてくれたのだろうか?

補習の時間に遅れそうなのに…わざわざ?

あたしは立宮先輩の背中を見送ってから、いびつに凹んでいるポッキーを持って廊下を歩きだした

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