天然なあたしは悪MANに恋をする
レンの制服のワイシャツに、切れた頬の血が染み込んでいった

「な…なんで、ここに赤族がいんだよっ」

赤族?

どうしてレンが赤族って言われてるの?

レンが暴走族にいるわけないのに…誰かと間違えてるんだよね

「…て、おい! この女は、立宮の女じゃねえのかよ」

幹部の一人が、あたしを拉致した大男を睨んだ

「だって、立宮と一緒にいたっすよ」

「それだけじゃ、女っていう証拠にはならねえだろ。ちゃんと調べておけっつったろ」

レンは用具室に足をつけると、肩を回してから手の指の関節をポキポキと鳴らした

「レン…やっぱ、来ちゃ駄目っ! 逃げて」

レンが喧嘩だなんて…怪我しちゃう

まだ身体にも顔にも痣が残っているのに、もっと大怪我になったら…

「情報収集力がないね。青は、さ」

レンが勝気な目で、幹部たちに微笑みかけた

「楽しいこと…俺もまぜろって」

レンが拳を握ると、まるでダンスでもするかのようにあっという間に、幹部3人を床にひれ伏せた

気絶をした男の筋肉があたしの眼前でひくひくと痙攣していた

「ひい…」

あたしの足元に倒れた一人の男から、逃げるようにあたしは用具室の壁にぴったりと背中をつけた

恐怖で足がガクガクと震える

立っていることができなくて、あたしは床に張り付いたまま、ずるずると座り込んだ

レンがさらに二人を殴って、気絶させるとあたしの近くに駆け寄ってきた

「ミズ、平気か? 何か、されたか?」

レンがあたしの両肩を掴むと、あたしの顔を覗き込んできた

「あ…あ、う」

あたしは『平気だよ』と言いたいのに、声が言葉にならなかった

代わりに大粒の涙が、目からぼろぼろと零れ落ちていく

涙で視界がぼやけて、レンの顔が歪んでいく

次第に、レンの顔までも見えなくなった

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