天然なあたしは悪MANに恋をする
まるでオモチャを取られて泣いている子供のように、大声をあげてあたしは泣いた

レンがあたしをぎゅうっと抱きしめてくれる

「レン…レン」

壊れた目覚まし時計みたいに、あたしはただレンの名前を連呼するだけしかできなかった

怖かった

ここから逃げ出すことすら考えられないくらい身体が動かなくて、恐怖で逆らうことすらできなかった

まだ全身がガタガタと震えている

レンが震えを止めようとぎゅっと抱きついて背中を擦ってくれているけれど、一向に震えが止まる気配がなかった

「とにかくここを出るぞ。安全な場所に行こう」

レンがあたしの肩を抱いて、窓から出て行こうとする

「ま…駄目っ! まだ、中に人が…」

「…んなの。どうでもいい。まずはミズを移動しないと」

「でも…3年生の先輩が」

あたしは用具室の扉のほうに視線を向けた

レンも閉じている用具室の扉に目を向ける

「ミズの気持ちはわかるが…こんなとこにミズを置いていけない」

「でも…」

「……ったよ。んじゃ、跳び箱の影に隠れてろ。絶対に動くな。その先輩とやらも助ければいいんだな?」

「あ…でも、たくさん人がいるの。喧嘩の強そうな男が30人とか40人とか。だからレンが行くのは…」

あたしはレンの制服の裾を掴んだ

3年生の先輩もきっと怖い思いをしている

助けて欲しいって思うけど、レン一人で行ってほしくない

レンが怪我をしたら、それも嫌だ

レンに行って欲しくないけど、3年の先輩を助けて欲しいの

矛盾しているのはわかってる…けど、どうしたらいいかわからない

一人だけ安全な場所に行くなんて…できないよ
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