天然なあたしは悪MANに恋をする
あたしはまだ若干震えが残る手を身体の後ろに隠すと、ソファに座った

どうしてレンは怒らないのだろう

怒られていいことばっかりしたのに、レンは優しくあたしに接してくる

「あっちぃ!」

レンがヤカンを素手で触ったみたいで、手を大きく上下に振っている

レンって家じゃ、キッチンに立つなんてしないから、お湯を沸かすのもきっと大変な作業なんだね

あたしがソファから立ち上がろうとすると、レンが「座ってろ」と声をかけてきた

「レン、どうして怒らないの?」

お茶の葉を探しているレンに、あたしが質問を投げかけた

少しは怒ってくれたほうが、気が楽になるのかもしれない

この身体の震えも…止まるかもしれないって思うのは、あたしの勝手な思い込みなのかな?

「怒ってどうするんだよ」

「え?」

「そりゃあ、苛ついてるし、ふざけんなって思ってる。けど、それをミズに言うつもりはねえよ。ミズが考えて、行動しただけだろ。俺がどうこう文句を言ってどうなるんだよ」

あたしはレンから視線を外して、下を向いた

呆れられちゃったのかな?

レンじゃなくて、立宮先輩のところに行ったから…「行くな」って言われていたのに、言ったから、「もういい」って思われたのかな?

「その顔は勘違いしてるだろ?」

「え?」

あたしはぱっと顔をあげる

「ミズが考えて、行動したことなら…俺はそれを受け入れるっつったんだよ。俺が苛つこうが何だろうが、それは俺の感情だ。どうにもできねえ」

「レン……ありがと」

「礼を言われても嬉しくねえよ。ミズは何でもため込むから、俺だってすげえ苦しかったんだ」

レンがマグカップにココアの粉を入れて、沸騰したてのお湯を注ぎこんだ

「茶っぱより先に、ココアが見つかったから、ココアにしたからな」

レンが言い訳がましく口にする

「ミズ、中学の苛めんとき、俺に一言も言わなかっただろ? 俺、待ってたんだ。お前が俺に助けを求めてくるのを。なのに、クラスの奴らに何をされようとも、一切口にしねえ。一人でこそこそと部屋で泣いて、俺の前じゃ、何もなかったように笑っていやがる。すげえ、むかついた」

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