天然なあたしは悪MANに恋をする
「レンはあまり感情を表に出さないほうなんだ。冷静に物事を判断するし、厳しい視線を持って、仲間にも厳しく接してる。己自身も厳しく律してるからこそ、まわりもレンの強さに憧れて、ついていってる。それに厳しいだけじゃなく、仲間意識が強い。仲間と認めたら、どんなことがあってもそいつを守り抜くし、信じ抜く。信じているからこそ、裏切り行為は許さないんだ。芯の強いヤツだよ。僕には羨ましいくらいの強さだよ」

片岡先生があたしより2段上の階段で、腰をおろして微笑んだ

「でもミズちゃんには、すごく甘いみたい。今度、見る機会があったら見てごらんよ。レンの財布。ミズちゃんの写真がたくさん挟まってる」

「え? たくさん?」

「ん。たくさん」

片岡先生がにこにこと笑っていると背後に、怖い顔をしているレンの姿が見えた

「片岡先輩、ミズに何を吹きこんだですか?」

「え? 何も。ただ今度、お財布を見てごらんって言っただけ」

「それが余計なことを吹きこんだって言うんですよ」

「そうかな? レンの愛情の深さが垣間見れるかと思って」

「『思って』じゃないです!…ったく」

レンが、あたしの上着を手渡してくれる

あたしはジャケットを羽織ると、片岡先生にお辞儀をした

「あの…お邪魔しました」

「あれ? 帰っちゃうの?」

「今夜はもう帰ります。明日、学校で。片岡先生っ」

レンが、意味ありげな笑みで片岡先生の名を呼んだ

「なんか、レンに『先生』って言われると気持ちが悪いよ」

片岡先生が身震いをすると、腕を擦った

「じゃあ、もう呼びませんよっ」

レンが片岡先生に背を向けると、靴を履いた

「困ったことがあったら、いつでもおいで。葉南も、出産までずっとここにいるし」

片岡先生があたしに微笑みかけてくれた

「ありがとうございます」

「いいって。この家は、騒がしさだけが取り柄だから」

片岡先生が困ったように肩をすくめた

あたしはもう一度、片岡先生にお礼を言うと、家を後にした
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