206[短編]
206
住宅街に佇むようにその場所はあった。来たことはなかったが、遠くから何度かその姿を拝んだことはあった。アパートの名前を確認し、鉄筋でできた階段をあがろうとした。
そのとき、近所の人なのか、三十代半ばと思しき女性が小声で囁き合っている。
「中井さんところの娘さん、三日ほど帰っていないらしいわね」
「家出とか?」
「そうじゃないかしら。警察にも届けたみたいだけど」
「まじめそうな子だったのにね」
どこかの家の噂話なのだろう。どこにでもそういうことを勘ぐる人はいる。だが、知らない人間だったこと、あまり人の家の事情を盗み聞きするのは気が咎め、気にしないようにして、鉄製の階段に足を忍ばせた。甲高い音が辺りに響く。
やっと上に向かう足が横に向かい出す。部屋の左上に書かれているプレートを一つずつ確認し、脳裏に思い浮かんだ文字列を探していた。
脳裏に浮かんだ文字と、目の前にあるものが重なり合う。そこには205と刻まれていた。古いアパートのためか、その文字が黒ずんで見えた。
そのとき、近所の人なのか、三十代半ばと思しき女性が小声で囁き合っている。
「中井さんところの娘さん、三日ほど帰っていないらしいわね」
「家出とか?」
「そうじゃないかしら。警察にも届けたみたいだけど」
「まじめそうな子だったのにね」
どこかの家の噂話なのだろう。どこにでもそういうことを勘ぐる人はいる。だが、知らない人間だったこと、あまり人の家の事情を盗み聞きするのは気が咎め、気にしないようにして、鉄製の階段に足を忍ばせた。甲高い音が辺りに響く。
やっと上に向かう足が横に向かい出す。部屋の左上に書かれているプレートを一つずつ確認し、脳裏に思い浮かんだ文字列を探していた。
脳裏に浮かんだ文字と、目の前にあるものが重なり合う。そこには205と刻まれていた。古いアパートのためか、その文字が黒ずんで見えた。
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