約束
 私は顔を上げて、その人の顔を確認する。ふちのないメガネをかけた、少し冷めた顔の人。彼は今日木原君の傍にいた。

「どうして知っているの?」

 晴実が話すわけもないし、私も誰にも話したことはない。

 私は答えを予測しながらも、そう問いかける。

「雅哉から聞いた」

 彼は私の隣に座る。私は辺りを見渡すが、誰も私たちを気にしている人はいない。誰にも聞かれていなかったことに安堵した。

「あの、誰にも言わないでくださいよ」

 その人は眉間にしわを寄せて、私を見る。

「別に言わないけど、あいつを口止めしないと意味ないと思うよ。普通に人に聞かれたら、答えてそうだよな」

 彼の言葉に妙に納得する。木原君はどこか抜けている。

 木原君には後から言っておこう。
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