約束
「君って本好きなの?」

「どちらかといえば苦手です。頭痛くって」

「無理してそんな本読むから」

 彼は人差し指で眼鏡の位置を整える。そのとき彼の瞳をじかに見て、その目があまり澄んでいることに驚く。ただ何も言えずに彼を見つめていた。

「あいつが好きなのは知っているけど、そこまで無理に話を合わせなくてもいいんじゃない。君は君なんだから」

 本当なら焦って、そうじゃないというシーンのはずなのに、そうしなかったのは、彼の綺麗な瞳のせいだ。人の心を威圧するような、それでいて惹きつけるような何かがあったのだ。初対面でほとんど知らない人なのに。

 だが、そこで首を傾げる。

 どこかで彼の顔を見たことがあるような気がしたのだ。顔というよりはその印象的な瞳といったほうが正しいかもしれない。

 木原君と親しいみたいだから、一緒にいるのを見て、記憶のどこかにその存在を残していたのだろうか。

「前に少しだけ話をしたことってありませんか?」

 確定を込めた意味で問いかけられなかったのは、いつのことなのか思い出せなかったからだ。


「覚えていたんだ。てっきり忘れているかと思っていたのに。別にたいしたことないから思い出さなくていいよ」

 何気にひどいことを言われてしまった。それに彼の言葉の内容も、妙に後味が悪い。

「気になる」

「別にたいしたことじゃないんだけどさ、ただ昔、君にコンタクトを探してもらったんだよ」

「あ、思い出した」

 と大きな声を出してしまい、自分で口を押さえていた。

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