約束
 なんてことはない記憶。彼のコンタクトを探すのに熱中しすぎて、その後、体育の授業に遅刻し、こっぴどく怒られたということがあった。そのときの彼が目の前にいる人ということなんだろう。

「今はメガネなの?」

「コンタクトは合わないみたいだからやめたんだ」

 メガネも似合っているんだけど、コンタクトのほうが個人的にはかっこいいような気がする。でも、合う合わないがあるなら仕方ないのかもしれない。

「メガネってどんな感じなの? 私の家族ってみんな目がいいから興味がある」

「かけてみる? でも、あまりしっかり見ると気分悪くなるかも」

 彼はメガネを外していた。メガネをかけないほうがすっきりとしていて、その整った顔立ちや澄んだ目が引き立つような気がした。

だが、そんなことを目の前の彼に言えば怪しいと十分心得ている。私はメガネを受け取り、それを目に当て、すぐにずらした。

嫌な感じで世界が映し出されていたからだ。頭ががんがんと叩くように痛くなってきた。

 彼は私の差し出しためがねをすっとかけた。

「本当、面白い」

「何が?」

「何を考えているのかすぐにわかるってこと」

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