約束
「行きましょうか」


 彼は不思議そうな顔をして、私の言葉に返事をしていた。

 教室を出る。そこから先は生きた心地がしなかった。彼が私の傍を歩いていて、顔をあげるといつも遠くから見ていた彼がいる。


夢を見ているような気分だった。足元はスポンジの上を歩いているようにふわふわし、頭は直射日光を何時間も浴びたようにぼーっとし、まともになにか考えることもできなかった。


 同じタイプの靴箱の並んでいる昇降口まで行くと、彼と別れる。そして、私の靴箱の前まで行くと、右手を心臓に当てた。心臓の鼓動は短距離走を走ったときのように乱れていた。

 何が起こっているんだろう。それが正直な気持ちだった。

 姉から電話がかかってきて、木原くんと一緒に帰るように言われて。

 お父さんの友達の息子さんというのが木原くんのことで。

 答えは分かっているはずなのに混乱してきてしまった。
< 11 / 546 >

この作品をシェア

pagetop