約束
 彼の笑いを込めた言葉がやけに引っかかる。 

「単純ってことですか?」

「自覚ないわけ?」

「すごくあります」

 彼は話した事もほとんどないのに、私が木原君を気にしているのを知っている。それは私の性格のせいだろう。

 それを言うと、彼は笑っていた。

「まあ、そうなんだけど。たまにあれから何度か見ていたというのもあるかな」

「そんなに私ってうろうろしてました?」

「というより、何度も目で追っていたから」

 彼は表情一つ変えずにそう口にする。

 私の心に率直な疑問が湧きあがる。

 何で……?

 目立つわけはない。行動がおかしい辺りだろうか。

 そういえば今日も知らない人に変な目で見られたことを思いだし、妙に落ち込んできた。

「すみません。すぐに気持ちが顔や行動に出るけど、でもそんなに怪しくはないですよ」

 といってみたものの、自分で怪しくないという程、怪しい人はいない。

 どう弁解していいか分からず、余計に悩んできてしまった。

「そうじゃなくて、君をいいなって思っていたから目で追っただけだって。そんな落ち込んだ顔をしなくても」

 私はその言葉を聞き、首をかしげた。

 いいなって……。

 そう心の中で繰り返した途端、私の顔が赤くなる。

 だが、彼は表情一つ変えない。まるで私が聞き間違いをしてしまったみたいだ。

 きっとそういう意味じゃなくて、別の意味だろうと思った時、彼はくすっと笑う。
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