約束
「いいよ。答えは聞かなくても分かっているし、君が誰を好きなのかも知っているよ」
私の憶測は合っていた。
人から好きだと思われるのは嬉しい。だからといって彼と付き合うかと言われると、やっぱり違うと思う。
「ごめんなさい」
私は彼の名前を言おうとして、口を噤んだ。私は彼の名前も知らないのだ。
彼は何かを悟ったのか、落ち着いた笑みを浮かべる。
「じゃ、名前だけ憶えてくれたらさっきのことはなかったことにしていいよ。俺は野木敦っていうんだ」
そこで動きが止まる。ちょっと変わった苗字で、その名前を親友の口から最近聞いたことがある。
告白されたときとは違う、心臓が嫌な鼓動を刻んでいく。ただ、今の状況を受け入れることが出来なかったのだ。
「本当の名前?」
「何か特殊な事情がない限りはそうだろうな」
私の失礼な問いかけにも、彼は肩をすくめて、やはり表情を変えないままそう告げる。
私が何を言っていいか迷っていると、彼は私の後ろを見て、僅かに目を見開く。そして、口角をあげて微笑むと、ゆっくりと椅子を引いて立ち上がる。
「俺は帰るよ。君達も帰るんだろうけど、お先にってことで」
私の憶測は合っていた。
人から好きだと思われるのは嬉しい。だからといって彼と付き合うかと言われると、やっぱり違うと思う。
「ごめんなさい」
私は彼の名前を言おうとして、口を噤んだ。私は彼の名前も知らないのだ。
彼は何かを悟ったのか、落ち着いた笑みを浮かべる。
「じゃ、名前だけ憶えてくれたらさっきのことはなかったことにしていいよ。俺は野木敦っていうんだ」
そこで動きが止まる。ちょっと変わった苗字で、その名前を親友の口から最近聞いたことがある。
告白されたときとは違う、心臓が嫌な鼓動を刻んでいく。ただ、今の状況を受け入れることが出来なかったのだ。
「本当の名前?」
「何か特殊な事情がない限りはそうだろうな」
私の失礼な問いかけにも、彼は肩をすくめて、やはり表情を変えないままそう告げる。
私が何を言っていいか迷っていると、彼は私の後ろを見て、僅かに目を見開く。そして、口角をあげて微笑むと、ゆっくりと椅子を引いて立ち上がる。
「俺は帰るよ。君達も帰るんだろうけど、お先にってことで」