約束
 気まずいのは嫌で、どうにかして話をしようとして必死に考えていた。

だが、言葉をどんなに捜しても、私と彼との間に何か適当な言葉が見つからなかった。

私たちは知り合いではあるけど、友達ではない。

友達だとしても付き合いがとても浅く、お互いのことを何も知らない。

一緒に住んでいるけれど、共通の話題もほとんどないのだ。

だからこういうときに掛ける言葉が見つからないのだろう。

 話ができるのは誰とでも話せる無難な会話だけ。中途半端に距離が近づいたからか、彼との本当の距離を知ってしまった。


 家が見えてきてほっとする。彼と一緒に学校から帰るのは二度目だが、あのときとは気持ちが全く違っていた。早くこの場所から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

 門に手をかけた私を木原君が呼び止める。

 そのときは彼に期待をしていたのか、胸を高鳴らせ、振り返っていた。

「今日邪魔しちゃったみたいでごめん。あいつ、すごくいいやつだからさ」
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