約束
 私の言葉を聞いて、百合は顔を背けてしまった。何か悪いことを言ってしまっただろうか。だが、彼女の色白の肌が次第に赤く染まっていく。

「あなたもいい子だと思うわよ。あの人の顔を見ていたら分かるもの」

 あの人というのが木原君のことだとすぐに分かった。穏やかな笑みを浮かべて微笑んでいる。

彼女を遠くから見ていたといたときよりも、今のほうが彼女には敵わない気がしていた。

私が思っているよりも彼女は上品で優しくて、何より木原君のことを大切に思っているのだと分かった。

 気持ちも落ち着き、彼女と一緒に教室に戻ることにした。だが、教室の前で足をとめたとき、あることに気付く。私の教室はまだざわついていたが、隣のクラスからはもう英文を読み上げる声が響いていたのだ。

 私が謝ろうとすると、彼女は優しく微笑む。

「悪いと思うなら気にしないで。忘れてくれればいいから」

「ありがとう」

 謝れなくなってそんな言葉を口にしていた。彼女は首をわずかにかしげ、笑顔を浮かべる。

 完璧すぎるな、と思う。
< 123 / 546 >

この作品をシェア

pagetop