約束
 彼女に見送られ、教室に入る。騒がしかった教室が一気に静かになるが、私の姿を確認したからか、また騒がしくなっていた。

 席に戻ると、前に座っていた晴実が振り返る。

「ごはんは食べなくて大丈夫?」

「大丈夫」

 私が勝手に教室を飛び出しただけなのに、本当のことを言えない彼女に心配させ、ただ申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまっていた。

人の優しさに触れれば触れるほど自分がいかにダメな人間なのか教えられたような気がしたのだ。



 ホームルームが終わると、ざわめきと共に教室内の人の数が減っていく。私は立つ元気がなく、椅子に座り込んでいた。

 名前を呼ばれて顔をあげると、髪をおろした晴実が私の顔を覗き込む。

「図書館、行かないの?」

「少し用事があるから」

「私も残っていようか?」

「大丈夫。すぐに行くから」

 晴実にこれ以上迷惑はかけたくなかった。彼女は私の様子が可笑しいと感じていたようだが、何かを具体的に聞くようなことはしない。そして、私の頭を軽く撫でると、「何かあったら相談に乗るから」と言い残し、教室から出て行った。

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