約束
「昨日は悪かった。あの距離だとやっぱり聞こえてしまうよな」

 彼の声は昨日のようにはきはきとしたものではなく、小さかった。それは恐らく廊下に声が届かないための配慮だろう。

 彼が謝ることになったのは私のせいだった。好きだと言ってくれた相手に謝らせるなんて最悪だった。人に気持ちを伝えるのは、緊張するものだとおぼろげでも分かっていたはずなのに、それ以上のことをさせてしまっていた。

「私こそ、ごめんなさい。返事とかしないといけないと思っていたんだけど」

 逃げていたんだって思う。自分が傷付きたくなかったから。

「昨日も言ったけど、返事はいいよ。分かっているから。雅哉には俺から言っておくから気にしなくていいよ。あんな場面をあいつに見せてしまったせめてもの罪滅ぼしかな。君は雅哉のことが好きなんだろうから、このままだとまずいだろう」

「別に好きなわけではありません。ただ、憧れているだけです」

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