約束
「俺には同じ意味に聞こえるけど。まあ、そんなことはどうでもいいか」

 彼はそういうと、穏やかな笑みを浮かべる。冷たい印象を与えるのに、笑うと優しい感じになるのに気付く。そんな笑顔をしていた人を知っている。性別は違うけど、優しい人。二人とも木原君のことが大好きなんだ。

「本当にごめんなさい。私は自分のことしか考えてなくて、あなたのことを傷つけてしまったかもしれないから」

「もともと分かっていたことだし、傷付いてもいないんだけど。俺も悪かったと思っているよ」

 私は首を横に振る。彼は絶対に私を責めようとしないが、一番悪かったのが誰かなんて考える必要もないほど明らかだった。


「じゃあ、その代わりに一つだけ頼んでいい?」

「私にできることなら」

 責められるかもしれないと思いながら、そう返事をする。責められても仕方ないと思っていた。だが、聞こえてきたのは私の想像を上回る言葉だった。

「雅哉が何か悩んでいるみたいだったら、話を聞いてあげてほしいんだ。一緒に住んでいるならそういうことも分かると思う」

 私は驚いて彼を見る。

「それが頼みごと?」
「物足りない?」
「そうじゃなくて、頼みごとというから自分のことを言うのかと思っていました」

「別に君に何かを強要しようだなんて思わないよ。そんなことをしても誰も幸せにならないし」
< 129 / 546 >

この作品をシェア

pagetop