約束
「雨がやんでから取りに帰ってきたらよかったのに」

 彼は黙ってしまい、真剣な顔をしている。何か悪い事を言ってしまっただろうか。

「それは嘘だったんだ。気を悪くしたらごめん」
「嘘って」

 何でそんな嘘をつく必要があるんだろう。彼は私の家に入ってくるのにも、出入りが自由なのに。

「本当は、さっき電話で様子がおかしかったから心配になって戻ってきたんだ」
「心配してくれたの?」

 彼は頬を赤らめうなずく。
 さっきショックを受けていたのは、木原君が家を出て行くかもしれないと思ったからだった。

 ごまかせばよかったのかもしれないが、彼が本当のことを言ってくれたから、私も本当の事を言いたくなる。

「さっき言った家の本を見て、木原君が出て行くんじゃないかって思ったらショックだったの。私、男の子の友達が少ないし、折角友達ができそうだって思ったのに、残念だなって思ったの」

 さすがに正直にと言っても、好きだと言う気持ちは伏せておいた。そんなことを言っても、余計彼を戸惑わせてしまうだけだと分かっていたためだ。

「あんなのをおいていたら紛らわしいね。適当に見て、放置していたから。まだ正式には決まってないけど、ここには残りたいと考えているよ。それに、俺は君とは友達だから、家を出ても学校で話しかけるよ」

「友達?」
「勘違いをしていたらごめん」

 彼はそういうと目を細める。

 少し前に百合から聞いた言葉だった。だが、それを彼の口から聞くことで、一気に現実感のある言葉へと変わっていく。
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