約束
 彼の家は私の家から歩いて十五分ほど離れていた。私は彼の家がこんなに近かったことを初めて知った。

 洋風の、海外の家を思わせるようなお洒落なつくりで、借家とはいえ、こういう家に住んでいることが新鮮だった。

 彼は門の前で足を止め、私を見た。

「ここで待っていてくれる? 親に言ってくるよ」

 私が返事をすると、彼は家の中に入ってしまった。

 この辺りはちょうど隣の校区になる。百合や野木君は木原君と同じ中学校だったはずだ。彼女達もこの辺りに住んでいるのかもしれない。

 だが、それだけではない。もう少し早く会えていたら、百合や晴実みたいに彼ともっと仲良くなっていたのかもしれないと思うと、残念だった。

 でも、時間はそこまで関係ないのだろう。その気があればいくらでも仲良くなれる。私の姉なんか分かりにくいからというもっともな理由で、木原君に自分のことを名前で呼ばせている。

 私だって由佳と呼ばれてみたいが、実際に呼ばれたら、舞い上がっておかしくなってしまいそうな気がしないでもない。

「君って」

 突然聞こえてきた声に顔をあげる。そこに立っていたのは背丈の高く、華奢だが、あまり弱々しさを感じさせない人だった。その人の第一印象は綺麗な男の人だった。

 黒髪に、どこか穏やか印象を与えるブラウンの瞳をしていた。年齢は私よりもずっと年上のような気がしたが、ふけているという印象はない。


 大人であろう彼にこんな言葉を使うのがおかしいかもしれないが、彼は大人びていた。男性はすっきりとした目元をただ見開き、私のことを見つめていた。
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