約束
 木原君の家に二人きりとは、今までは考えられない状況だった。そんな奇跡のような出来事に緊張をしないでいるのは難しく、余計に背筋を伸ばし、膝の上に置いた拳に力を込めてしまっていた。

だが、これではかしこまっているのがばればれで、いけないと考え直す。

 私は何か話題を振る事にした。

「木原君のお母さんってすごく綺麗な人だね」

 木原君は首を傾げて難しい顔をしていた。自分の親を綺麗だという人はあまりいないのかもしれない。

「君はお母さんと似ているよね」

 それはほめ言葉と受け取っていいのか分からなかった。木原君のお母さん並にきれいなお母さんだったら素直にありがとうと言えたかもしれない。でも、私のお母さんは普通で、年よりは若く見えるといった程度だった。

もちろん、それよりも格段に木原君のお母さんのほうが若く見える。

「私って童顔なんだよね。この年で中学生に間違えられるんだから」

「そんなことないよ。高校生に見える」

 褒められているのかは分からないが、笑顔の木原君にとって悪い意味で言ったんじゃないだろうとは分かった。

 私はリビングの中を見渡す。木原君がずっと住んできた家。彼はどういう子供時代をすごしていたんだろう。

 だが、そんなことは聞けない。

「引越しは大変?」

「引越し先は前にすんでいたところだから、そこまではないかも。そこは結構広いから荷物もほとんど捨てずに持っていくみたい」

「そうなんだ」

 どこなんだろう。知りたいけど、聞けない。彼から友達と言われても、彼に踏み込むのはまだできなかった。
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