約束
 とりあえず熱を出したら冷やすはず。冷やすなら氷枕を使うのが良いだろう。リビングに行くと冷蔵庫の中にあった氷枕を引っ張り出してきた。

あとは彼の体温を測るための体温計を救急箱から取り出し、脱衣所にあるタオルを手に、彼の部屋に戻る。

 私は寝ている木原君の傍で持ってきたものが思いの外役に立たないと気付く。氷枕は頭の下に敷くものだが、寝ている彼の頭を強引に動かすのは気が引ける。体温計で勝手に熱を測るのはもってのほかだ。

 苦しそうな木原君を見て、視界が滲んできたため、思わず頬を抓る。

 とりあえず彼の熱を下げないといけない。

 私は彼の部屋を飛び出し、階段を降りると、何か熱を冷ますものがないか探すことにした。

救急箱をあけると、額に保冷剤を貼るタイプのものを見付け、木原君の部屋にもどり、額に貼ってみた。だが、彼の苦しそうな表情が楽になることはなかった。

 病院に行った方がいいかもしれないとは思いながらも、私はどうしたら良いか分からない。何でこんな時に誰もいないんだろう。

 呻き声をあげている彼を見ていられずに、目を逸らす。その時、私は木原君の机の上にあるものを見つけた。そこには参考書が置かれてある。

いけないとは思いながらもその表紙を確認した。学校で使っているものではなく、大学の過去問を集中的に収めている本だった。
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