約束
「今から迎えに行くわ」

「でも、眠っているから動かさないほうがいいかなって。起きたらまた電話をしますから。それに引越しの準備もあるとおもうので」

「でも、迷惑をかけてしまうからやっぱり迎えにいくわ。由佳さんにうつしてしまったら、もうしわけないもの」

「私は体が強いし大丈夫ですよ。何かあったらすぐに電話をしますから」

 そういったのはわがままだったのかもしれない。多分、彼も実家に帰ったほうが、ゆっくりと過ごせるんだと思う。それでも少しでも彼の傍にいて、罪滅ぼしをしたかった。

 私は彼女を説得し、電話を切っていた。

 木原君の部屋に戻る。どうしたら熱が下がってくれるんだろう。熱を出した記憶がほとんどない私には未知の世界だった。

「ごめんね」

 私はそう言葉を告げる。

 彼の顔をじっと見ているのも悪い気がし、一度部屋に戻って、何か読み物でも探すことにした。そのとき、目に飛び込んできたのが図書館で借りてほとんど読んでない本。

 彼との話題づくりという人に聞かれたら呆れそうな理由で借りたのに、数ページで挫折し、いろんな理由をつけて結局読んでいなかった。

 その本を持って、木原君の部屋に戻る。床に座ってその本を読むことにした。

あのときはものすごく難しい本だと思っていたが、ある程度読み始めると、今までばらばらに感じていた物語が一つに繋がっていく。それからはページが進むのが早くなった。


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