約束
「そうじゃなくて、熱あったんだよ。寝ていないとだめだよ」

「熱? そうなんだ。気づかなかった。なんか体がだるいとは思ったけど、あまり寝ていないからかと思っていた」

 木原君の両親が彼に一人暮らしをさせるのを迷っていた理由が分かる気がする。そんな感じで、気づかないうちに倒れていたりしそうだった。

「でも、きつかったり、熱っぽいと思ったら熱を測ったりしない?」

「あまりそんな習慣はないから、だるかったら睡眠不足かなって思ってた」

 習慣なんて、そんな問題でもない。間の抜けたことを言う彼のことが余計に心配になってきた。

「今度からきつかったら無理しないで言ってね。倒れたりしたら大変なんだから。すごく心配なんだから」


 彼は口を開け、面食らったような顔をしている。そんなことを言われるとは思ってもみなかったのだろう。そして、少しだけ笑っていた。

 私には彼がどうしてそのタイミングで笑ったのか分からなかった。

 私と目が合った彼は「ごめん」というと咳払いをする。

「北田にも、昔似たようなことを言われたなって思って」

「北田さん?」

 彼女は随分、木原君のことを知っているみたいだった。北田さんなら彼のこんな変化に気づいたのかもしれない。私が彼女の代わりになれるとは思わない。それでもほんの僅かでいい。彼の力になりたかった。
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