約束
「たいしたことはできないかもしれないけど、一緒に住んでいるのだから、少しくらいは役に立つと思うから、だから何でも言ってね」

「今度からそうする」

 そう言った彼の言葉が優しく、切なくなってきた。どうしてもっと早く気づいてあげられなかったんだろう。自分のふがいなさが情けない。

 そのとき、彼が額にはっていたものに気付いたのか、ゆっくり剥がす。その脇には彼の頭の下に敷きたくて、敷けなかった氷枕が転がっていた。彼はそれにも気付いたようだ。

「ずっと看病してくれていたの?」

「看病ってものじゃないよ。ただ、この部屋にいただけだから」

 良く考えると、プライバシーを無視して、勝手に部屋に居座って、迷惑なことをしたのかもしれない。

「ありがとう。そういえば家に電話をしないと」

「お母さんに電話をしておいたよ。起きたらまたかけるって言っておいたから、木原君から電話して。勝手なことをしてごめん」

 木原君の枕元にある時計をみると、時刻は五時を過ぎていた。結局、六時間以上、ここに居座っていたことになる。ご飯を食べるのも忘れていた。

 だが、木原君の状態を確認してからは、お腹が空いているとは感じなかった。そうしたことを考える余裕がなかったといったほうが正しいのかもしれない。
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