約束
 翌朝、彼の熱はすっかり下がっていた。私を含め、私の家族は学校を休んではどうかと言っていたが、木原君は大丈夫だからと学校に行こうとしていた。

 木原君はお母さんに無理したことに対して怒られていたようだった。彼は家を出てから、苦笑いを浮かべながらその時の話を聞かせてくれた。

 顔色は随分戻ったようだが、まだ若干疲れが見え隠れする。

「いろいろありがとう。折角の休みなのに悪かった」

 休みなんかよりも木原君のほうが大切だ。だが、そんなことを素直に言えば困らせてしまうだけだということも分かっている。

 私は首を横に振る。

「気にしないで。そういえばね、木原君の部屋にいるときにあの本を読んだんだ」
「どうだった?」

 私は本を読んだ感想を素直に伝えようとした。だが、すぐにはうまい言葉が出てこない。それでも必死に考え、自分の感想を出そうとする。その間、彼は私を急かしたりせずに黙って待っていてくれた。

「優しい気持ちになれる本だった。文学的なこととか全く分からないけど。私、本とか全然読まないの」

「らしいね。君のお姉さんから聞いた」

「そうだったんだ」

 一人で見栄をはってばかみたいだ。私はそう思うと、自ずと笑う。見栄を張る必要なんてなかったんだって気づいた。
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