約束
「何か、面白い本があったら教えて」

 これからは今までしなかったことに少しずつ取り組んでみたいと思ったから。

「どんな本がいい?」

「考えておく」

 私は歩いている足を止めた。
 隣を歩いていた木原君の足もとまっていた。

「いつもあんなに勉強しているの?」

「まあね。君の家に迷惑をかけてまでここに残っているし、現役で大学行きたいし。もうすぐ中間テストだし」

「羨ましいな。私には何もやりたいこととかないから」

「別に気にしなくていいと思うよ。人それぞれだと思うし、やりたいことが見つかったときにがんばればいいんじゃないかな」

 私は彼の言葉に顔を上げる。

 彼は間を置いて言葉を続ける。

「でも、今頑張っておいたほうが選択肢は増えていいとは思うよ。いざというときにね」

 私は彼の考えを聞き、あっけにとられていた。みんな、勉強をしても将来に役に立たないという。わたしも正直、そう思っていた。授業中もその時間が過ぎ去ってくれるのを待っているだけの日々だった。

 私が見ていたのは今の時間で、彼が見つめていたのはその少し先の未来という時間だと気付いたのだ。

「木原君が暇なときでいいから、勉強を教えてくれないかな」

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