約束
 私がそういうと彼女たちは不服そうな顔をする。でも、それは半分は本当だ。もう半分は彼のプライベートなことを話したくなかったのだ。

 私が彼を好きだからというより彼のプライバシーに触れ回るのは、木原君の立場なら嫌なのではないかと考えたためだ。

「じゃ、家に遊びにいっていい?」

 その時、私の前の席に百合と晴実の姿が見えた。百合はふっとため息を吐く。

「由佳。ごはんを食べに行こう。昼休みが終わるよ」

 百合は私を見ると、そう告げる。私の前を囲んでいた女の子達が一気にその場から後ずさりする。

 百合はなぜか学校の人から苦手意識を持たれているのか、彼女がきてくれると木原君の聞き込みが驚くほどなくなる。彼女たちにとってライバルはあくまで百合なのかもしれない。

 私はお弁当を入れた袋を手にすると、彼女達に軽く頭を下げ、教室を後にした。

 私達が校舎の外に出ると、降り注ぐ温かい日差しを一身に浴びる。今日は空気が澄んでいるのか、空が青々としている。私達は校舎の外にあるベンチで頻繁にご飯を食べるようになっていた。


 私達が今日選んだのは、中庭にあるベンチだ。背後には腰の高さほどの植木が並んでいる。前方には校舎が聳え、ちらほらと人の姿が目に入る。職員室の近くということもあり、この辺りはいつも人気がない

 ベンチに座ると、お弁当箱を布袋から取り出し、ひざの上に置く。百合も晴実もほとんどがお弁当だった。

 晴実は真っ先にお弁当を開ると、卵焼きをお箸でつかむとまじめな顔をした。
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