約束

「やっぱり笑わないのがいいのかな」

 彼女の何気ない言葉に思わず苦笑いを浮かべる。

 一方の百合は晴実を軽くにらむ。

「それって何気に嫌味のように聞こえるんだけど」

 彼女のひざの上には小さなお弁当が置いてある。

 私はいつもそのおかずの豊富さに驚かされる。同じような具をつかっていても、適度にアレンジをされていることも多い。百合の母親を見たことはないが、料理が上手な人なんだろう。

「いやいや。すごいなと思って感心しているの。怒鳴るわけでもなく、あんな風に周りがざっと引いていくって普通じゃないよ」

「あまり話をしないからじゃないの? 私だってどうしてそんな態度を取られるのかよく分からない」

「バックに怖い人がいるとかさ」

 百合は頬を膨らませると、そんなふざけている晴実の頬を軽くつねっていた。

 彼女は晴実から手を離すと、美しい顔を潜めたまま、言葉を続ける。

「彼女達からしたら一番怖いのは木原君だからじゃないの? 由佳を省けば私が一番仲がいいとは思うから」

 晴実は卵焼きを食べ終わると、ベンチの上に置いていたペットボトルを飲む。一口で終わると思っていたが、意外に喉が渇いていたのか、半分ほどの量を飲みつくしてしまった。

「それは確かにそうかもね。由佳ももっとさめた感じで追い払わないとダメなんじゃないかな」

「由佳には無理でしょう。どう考えても」
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