約束
 その言葉に百合は形のよい眉をひそめていた。

 晴実は私をチラッと見る。だが、すぐに百合に視線を戻していた。

「百合は今まで彼氏がいたことないんだよね」

「一度もないよ」

「木原君と百合がつきあっていたって噂」

 百合は苦笑いを浮かべて、ふっと息を吐く。

 私もその噂は聞いたことはあった。でも、その噂は多種多様で、百合が振られただの、木原君が振られただの、ただの振りだっただの多くのパターンが流れていた。その中でよく聞くのは中学時代に木原君に告白した彼女が振られたというものだった。

「あれはデマよ」

「それはなんとなく分かるけど、そのほかにも変な噂があるよね。中学時代の噂」

 その言葉をきいたからか、百合の動きが止まる。彼女お箸を箸入れに戻すと、蓋をする。そして、お弁当箱も蓋をし、鞄の中に片付けていた。彼女は長いため息をついた。

「どこで聞いたのよ」

「クラスの子が話していた。大人の彼氏がいたって」

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