約束
 聞きだしたのは私ではないが、あのときの状況だとそういうのがしっくりくる気がした。

 どう考えても無理に聞いたため、素直に聞きましたというのは気が引けたのだ。

 百合が彼のことを苦手だと言っていた気持ちが分からないでもない。それも木原君を好きだったなら尚更だ。

 性格が全く違うのは分かっていても、ふとした瞬間に木原君に言われたような錯覚に陥ってしまいそうになる。

「百合の事は否定はしないけど、今日は雅哉に会いにきたんだ。久々に会って、大きくなってびっくりしたよ」

 彼は笑顔で子供に対して言うような言葉を口にする。

 木原君の顔が少しだけ赤くなる。

「だからそうやって子ども扱いは。ついこの前、会ったばかりだろう」

 木原君は私をちらっと見る。私は意味が分からずに首をかしげていた。

 そんな私を見て、矢島さんは笑顔を浮かべていた。

「急に来ないで電話をかけたら良かったのに」

「悪い。間違って雅哉の番号を消しちゃったんだ」

「父さんか母さんに聞けば良かったのに」

 木原君は鞄から携帯を出す。
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