約束
「私、部屋に戻りますから、気にしないで話を続けてください」

 二人の会話の邪魔になっているかもしれないと考えたためだ。

「いいよ。気にしなくて。今日は二人の顔を見に来ただけだよ」

 二人というのは木原君と誰のことなんだろう。彼が会ったのは私だけど、私をわざわざ見に来るとは思えない。もしかして百合に会いに来たんだろうか。

「それに面白いものを見れたからいいよ」

「面白いものって?」

「それは秘密」

 彼は一見フレンドリーに話しかけてくるのに、きちんと線引きをする人だと思った。野木君とは違うタイプだが、こういう人の本心もまた分かりにくい。

「送っていくよ」

 木原君はそう言うと、立ち上がった。いつの間にか彼のコーヒーカップも空になっていた。

 木原君が先に出て行き、矢島さんがその後を追うように立ち上がる。だが、彼の足が部屋の出口のところで止まった。

 彼がゆっくりと振り返ると、屈託のない笑みを浮かべる。
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