約束
 私が反応する前に、電話の向こうで話し声が聞こえる。今度は木原君の声に変わる。

「ごめん。あいつに電話取られていた」

「どうかしたの?」

「いや、北田に会いたいって言っているんだけどさ」

 私は百合を見た。

 百合は肩をすくめた。

「あの人が来たのね」

 私の心を読めるんじゃないかという程の察しの良さだ。

「いいよ。代わるわ」

 私は百合に携帯を渡した。彼女は言葉を交わしている。最後に「門のところにいる」と電話を切り、私に返す。

「電話を使ってごめんね」

 彼女は肩をすくめると申し訳なさそうな顔をしていた。

「いいよ。気にしないで。でもいいの?」

 百合は頷く。
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