約束
 彼の言葉に百合は返事をせずに、曖昧に微笑んでいた。

「じゃ、帰るよ」

 木原君は矢島さんを促し、遠ざかっていく。

 百合の瞳は二人の後姿をただ追っていた。

「困った人だと思うけど、悪い人じゃないと思うよ」

 私がそう言ったのは、彼をフォローしたかったからだ。

「いい人だからよ」

 百合はそう言うと、天を仰いだ。

「いい人だから付き合えないし、顔似ているから、なんか利用しているみたいで嫌。だから、期待をもたせたくないの」

 百合は分かっているのだ。彼がどれほど彼女のことが好きなのか。それは暗に百合の木原君への思いの深さを表していた。
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