約束
「でも、由佳ちゃんってお母さんに少し似ているよね。会ってすぐに分かったよ」

「お母さんに会ったの?」

「家の前で偶然ね。どうせなら上がっていきなさいって言われたんだ

 木原君が矢島さんを家にあげ、苦笑いを浮かべていた理由に気付く。

「矢島さんは」

「一馬でいいよ。苗字呼ばれてもしっくり来ないし、気づかないかも」

 私の言葉に言葉をかぶせてきた。

彼のライトな口調から、彼は誰にでもそんなことを言っているのかもしれない。

男の人を名前で呼んだことはなかったが、気にする必要がないと言い聞かせる。

「じゃあ、一馬さん」

 呼び捨てにしようと思ったが、気恥ずかしくなり、さんをつけることにしたのだ。

「ま、仕方ないか」

 彼は少しだけ偉そうに言った。

 彼のそんな態度に思わず笑ってしまう。

「由佳ちゃんはさっき何を言おうとしたの?」

 私は自分が言おうとしたことを思い出し、笑ってしまう。改めて聞き返されるほどの話でもない。

「本当に百合のことが好きなんだなって思って」

 彼の顔が驚くくらい赤くなっていた。私が驚くくらいだ。すごくはっきりと変わっていたのだろう。
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