約束
「あまりいいことは言ってなかっただろう? なんかかなり嫌われているみたいだし」

「本心で嫌っているわけでもないとは思いますよ」

「優しいんだね。ありがとう」

 彼の気持ちの深さを知っているからこそ、冷たい態度を取ってしまっているのだろう。

 彼は百合が誰を好きか知っている。その人は自分の従兄弟で、百合をあっさりと振ったことも。そう思うと、なんだか切なくて、私は唇を噛んだ。曖昧にごまかすことができなくなっていたのだ。

「百合はいい人だから、利用したくないから付き合えないって」

 本当な言ってはいけないと分かっていても、つい言葉を漏らす。

 その時、一馬さんから笑顔が消えた。

 彼はため息を吐くと、天を仰いだ。

「利用されてもいいんだけどな。それであいつが少しでも笑ってくれるなら」

 それは紛れもない彼の本心だろう。そんな風に誰かに思われている百合が羨ましかった。

「その感じだと、百合の好きな相手のことも知っているんだよね。大分、割り切っているみたいだけど」

 私は頷いた。
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