約束
 そんなものなのかというのが率直な感想だった。

「百合のこともあったけど、それよりもあいつのことも心配だったんだ」

「木原君のこと?」

 一馬さんは頷いた。

「でも、大丈夫そうで安心した」

 彼はどこか抜けているところがあるとは知った。でも、しっかりしている彼の何を心配する必要があるのだろう。

 だが、身内であれば分かることもある。もしかすると、隙のなさが一馬さんを心配させるかもしれない。

「木原君のことが大好きなんですね」

「大好き、か。まあ、そうかもね。あいつだけには幸せになってほしいんだ。いつか本当に心から笑えるように」

 そう苦々しく口にした一馬さんの声が夕日に溶け言っていく。

 私は想像以上に太陽が傾いているのに気付いた。淡いオレンジ色の光が街を照らしていく。そういえばあのときもこんな夕焼けだった。

 今でもあのときの、胸の奥をくすぐるような記憶が蘇る。
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